日本語は、ヨーロッパのような強弱ではなく、高低のアクセントを持っています。
従って一つのメロディーで一番、二番と繰り返すと、うっかりすると
アクセントが逆になることがあります。
一番の「山の」に「ミソソ」というメロディーをつけた場合、二番の同じところが
「海の」だと、それは「膿の」と聞こえ大変きたない感じになります。
だから山田耕筰は「からたちの花」の一節目の「白い、白い」という所は
「ミソド ファラド」とし、三節目の「いつも、いつも」は
「ソミソ ドラソ」と変えています。
ところでここにおもしろい歌があります。
明治三十三年『幼年唱歌』に出ている、石原和三郎作詞、納所弁次郎作曲の
「おつきさま」という唱歌です。
この歌は最初が「おつきさま、えらいな」ではじまるのですが、そこに
「ソドドド ミドド」というメロディーがついています。
「ミドド」と「え」にアクセントが来るので、「えらい」と、これは
関西風アクセントで、標準語のアクセントでは「えらい」と「ら」が
高くならなくてはなりません。その上、この歌は最後が
「はる なつ あき ふゆ 日本中を てらす」というのですが、
そのメロディーが
「ソラ ソミ レミ レド ラソドレ ミレド」となっています。
「はる なつ あき ふゆ」と
全部関西風アクセントで標準語とは全く反対です。
「日本」というのも「てらす」というのも関西風です。
明治の唱歌は相当アクセントには気を使っていて、こんなに全部
関西風のアクセントの曲というのは他にありません。
この作曲者の
納所弁次郎は、「桃から生まれた桃太郎」などの曲を作っている人で、
音楽取調掛の卒業生で、長い間学習院女子部の教授を勤めていました。
明治時代には数少ないテノールの歌手です。
あるいは関西の生まれかと思いましたが仙台の出身です。
田村虎蔵と二人で、『幼年唱歌』を編集したことで有名です。