シューベルトの子守歌の一番古い訳は、明治四十二年『女性唱歌』の中の近藤朔風のものです。
しかし古風でむつかしいので、大正五年『セノオ楽譜』の内藤水*(注)(『星の王子さま』の訳者内藤濯)
のものが愛唱されました。
ブラームスの子守歌は、大正六年、モーツァルトの子守歌(本当はベルリンの医師ベルンハルト・フリースの作曲)は、
大正十三年どちらも『セノオ楽譜』の堀内敬三の訳がよくうたわれています。しかしシューベルトは、
「ねむれ、ねむれ、母の胸に」、ブラームスは「眠れよ吾児、汝を環りて」、
モーツァルトは「眠れ よい子よ」と、どれも赤ん坊を、ねむれと叱りつけているような歌です。
ドイツ語の歌詞は「シュラーフェ」と命令形になっていますから「眠れ」という訳語が
生まれたのでしょうが、可愛い子どもをねかしつける歌としては少し無神経な気がします。
訳す時、「眠れ」という原語のニュアンスを、江戸期以来の日本の子守歌の用語の中から、
もっと適当なものを見つけ出してほしかったと思います。
江戸子守歌の、一番普通の形は「ねんねんよ おころりよ」です。
「眠れ!」などと命令するようなおそろしいものはありません。
大正から昭和への近代童謡の中にも子守歌はたくさんあります。
特に北原白秋は、うっとりするような子守歌をたくさん作っています。
なかでも「ねんねこ ねんねこ ねんねこよ」という「揺籃のうた」はいつうたっても
とろりとする美しい子守歌の傑作です。
私風にシューベルトの子守歌を作ってみました。
うたってみて下さい。
ねんね ねんね ねんねよ ぼうや
ねんね ねんね 花のように
ゆらゆらと 夢のせて
星の光る あの国へ
*注は 羽 冠に隹